■人とスパイス

スパイスといえば、食物を美味しくする事はもちろんですが、切り離せないのが薬効。
はるか昔、もしかしたら人が2本足歩行をする以前から、犬や猫が体調を整えるために草を食べるように、人は役に立つ葉についての知識を持ち合わせていたかも知れません。

 
■歴史上わかっている最古の記述
    
スパイスについて、歴史上わかっている最古の記述は、メソポタミア文明の古代アッシリアの時代です。
石に彫られた神様の物語りにセサミシード入りのワインが出てきます。
そして古代エジプトでは、ミイラの防腐処置や宗教的儀式、医薬品、化粧品として使われたばかりではなく、アロマテラピーとして使い初められてもいました。
ギリシャ・ローマ時代には、薬効についての研究が盛んになり、書物にまとめられ、近代薬学医学の基礎となりました。また、料理にも使用されるようになり市民の生活を彩りました。

        
■当時はアラビア商人が市場を独占
    
スパイスが生活の中で色々使われたギリシャ・ローマ時代はアレキサンドリアの港を中心にスパイス貿易がおこなわれていました。
しかし、8世紀には、アラビア商人が市場を独占し、隊商を組んで原産国インドからシルクロードを2年あまりかけて運んでくるようになりました。
ヨーロッパでは価格も1000〜2000倍になり、大変高価な物になっていきました。
彼等は、価格をつり上げ独占していくために、旅の過酷さを誇張し
『スパイスの木は歩くから、探すのは難しい』とか『怪物の目を盗んで採ってくるのだ』とか、ホラ話を作り市場を守っていました。
そんなおとぎ話が、後世ヨーロッパの人々の東洋のイメージに大きく影響していたようにも思えます。

        
■大海洋時代へ突入
    
不思議の国に対する憧れとスパイスがうみだす巨億の富みがスパイスの原産国に対する人々のロマンをかきたてます。
そして、1299年にマルコ・ポーロが『東方見聞録』を書き、帆船の発達と共に、15世紀は一気に大海洋時代となります。
各国が自国の富みと名誉を賭け、大洋へと乗出して行き、アフリカ希望峰の発見、新大陸の発見などが相次ぎますが、スパイスの原産国インドに着いたのはポルトガルのバス・コダ・ガマ。
ポルトガルはインドより直接スパイスを買付け海路を掌握しました。これにより、アラビア商人の独占市場は崩れました。
ポルトガルに続いて、スペイン、オランダ、イギリスなどが東南アジアの植民地支配を拡大して行き、争いは熾烈になりついには植民地戦争まで起こします。


        
■スパイスの原産国神話が崩れる        
    
スパイスは原産国民の裏取引きにより、南米、西インド諸島などの各国の植民地に密かに移植されたり生産量も著しく増え、価格も安くなり庶民でも手に入るようになりました。
これによりスパイスの原産国神話も崩れていきました。

        
■日本では
    
日本では、古来から日本にあったスパイス(山葵、山椒、茗荷など)は別として、聖武天皇の時代にはペパー、シナモン、クローブが薬として渡って来ています。
その後、最初に来たポルトガルの宣教師がワインや西洋料理とともにスパイスも持込みましたが鎖国政策にあい退去。
出島のオランダ人が料理としてごくわずか普及させましたが、中国から薬として入ってくるスパイスが主流でした。
本格的に料理に使われるのは、明治に入り開国してからですが一般市民にはまだ縁遠く、使うのは、ホテルや一部の愛好家だけでどこから買っていたかというと漢方薬屋から入手していました。
大正の終わりから昭和の初めにかけて、やっと日本人の嗜好に合うようなカレー粉、ウースターソース、ケチャップ、マヨネーズなどか開発され、その中に多数のスパイスがブレンドされて使われ、知らず知らずのうちに市民も口にするようになっていきました。

        
■今でも私達は
            
今でも私達は、スパイスといえば、辛いとか薬臭いというイメージがありますが、レストランはもちろん市販のソース、ドレッシング類などに入っており、それらを私たちは美味しく食べています。
かまえてスパイスを使うと思わなくとも日頃なじんでおり、調味料としてのスパイスの味は定着しています。
日本人ほど和、洋、中いろんな国の料理を自宅で作る国民はいません。
同じ食材を使ってもどんな味付けにするかで、料理の国籍が変わります。その時、強い味方となり魔法の一振りでより本格的な美味しさを引き出してくれるのがスパイスです。
また、冷凍食品や半加工食品もますます増えて、これらをいかに上手に飽きずに使うか頭を悩ませるところです。その時もスパイスを少量プラスしてみて下さい。
冷凍ピザにオレガノ、バジル、タイムを一つまみ、食欲をそそる香り豊かなピザに大変身。また、マヨネーズやケチャップにカレーミックスを少量加えるだけで目先の変わったソースになります。
スープやシチュー、焼き物、ソースやドレッシング、気軽に2〜3種類のスパイスを少量入れてみる。ほんのり香って奥行のあるコクがでます。お料理上手はスパイス上手。
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